松山地方裁判所西条支部 昭和48年(ワ)85号 判決 1974年8月08日
原告
竹原ひとみ
ほか二名
被告
高田勝美
ほか一名
主文
被告らは各自、原告竹原ひとみに対し金四六一万〇、九三三円、原告竹原敏子に対し金二五五万五、四六七円、原告竹原弥三郎に対し金五〇万円、並びにこれらに対する昭和四八年七月二一日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を各支払え。
訴訟費用は被告らの負担とする。
この判決は仮りに執行することができる。
事実
(甲) 申立
(原告ら)
主文一、二項と同旨の判決、並びに仮執行の宣言。
(被告ら)
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
との判決。
(乙) 主張
(原告らの請求原因)
第一 一 訴外亡竹原五郎は昭和四三年三月一〇日訴外森川重雄運転の車両と衝突する交通事故(以下第一事故という)により左大腿部の筋肉脱落大腿骨脛側開放性骨折の傷害を受け、同所筋肉骨格並びに膝関節共にその用を全廃する後遺障害を残していた(自動車損害賠償保障法施行令別表第五級に該当する)。
二 被告青野俊則は昭和四六年四月一七日午前七時すぎごろ、愛媛県東予市大字北条一、六五五の三先県道上(以下本件第二事故現場という)を大型貨物自動車(愛媛一な二、六四六号。以下本件甲車という)を運転して西方に向け進行中、東方より進行して来る訴外中津正義運転の軽四輪乗用自動車(愛媛け六、七八七号。以下本件乙車という)と衝突し、よつて右乙車運転席左側座席に同乗していた訴外竹原五郎は前記後遺障害のため右衝突に際し左脚の踏張りによつて自己身体を伏臥し又は左右に急退避することもできないまま本件甲車と激突し即死するに至つた(以下第二事故という)。
三 (一) 右第二事故は被告青野俊則の過失に基づくものである。
(二) 被告高田勝美は本件甲車の所有者であり、又被告青野俊則の雇傭主であり、右第二事故は同被告の業務執行中に生じたものである。
第二 一 (一)(1) 訴外亡竹原五郎の本件第二事故当時の三ケ月平均収入は一ケ月金一六万円であるが、これよりその生活費金三万円、傭人一人に支給する金三万円を差引くと金一〇万円が一ケ月の純収入となる。因みに、同訴外人は前記後遺障害がなかつたならば、二ないし三倍の収入を得られるものをと往々口にしていたものである。
ところで、同訴外人は死亡当時満三八才でその稼働年数は二五年であるからその間の逸失利益をホフマン方式により中間利息を控除するとその現在高は金一、九一三万二、八〇〇円となる。
(2) 同訴外人が本件第二事故により受けた精神的苦痛は金三〇〇万円と看るのが相当である。
(3) 右(1)、(2)を合計すると金二、二一三万二、八〇〇円となるところ、これより受領済のいわゆる自賠責保険金一、〇〇〇万円を控除すると金一、二一三万二、八〇〇円となる。
(二) 原告竹原敏子は右訴外人の妻であり右(3)の三分の一である金四〇四万四、二六六円を、原告竹原ひとみは右訴外人の子であり右(3)の三分の二である金八〇八万八、五三三円を各相続した。
二 (一) 原告竹原敏子は右訴外人の死亡によりその葬祭費金二〇万円を必要とした。
(二) 又右訴外人の死亡により原告竹原敏子、同竹原ひとみ自身が受けた精神的苦痛は各金一〇〇万円宛と看るのが相当である。
又、原告竹原弥三郎は右訴外人の父であり同訴外人の死亡により同原告自身が受けた精神的苦痛は金一〇〇万円と看るのが相当である。
三 右一(二)及び二(一)(二)を合計すると、結局原告竹原敏子の受くべき損害賠償の額は金五二四万四、二六六円、原告竹原ひとみのそれは金九〇八万八、五三三円、原告竹原弥三郎のそれは金一〇〇万円となる。
第三 そこで、被告青野俊則に対し民法第七〇九条に基づき、被告高田勝美に対し自動車損害賠償保障法(以下自賠法という)第三条又は民法第七一五条に基づき、右損害金の内原告竹原敏子は金二五五万五、四六七円、原告竹原ひとみは金四六一万〇、九三三円、原告竹原弥三郎は金五〇万円、並びにこれらに対するその履行期後である昭和四八年七月二一日から支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を連帯して支払うよう求める。
(請求原因に対する被告らの答弁)
請求原因第一項一は不知。同項二のうち原告ら主張日時場所で本件甲車と本件乙車とが衝突し、右乙車に同乗していた訴外亡竹原五郎が死亡したことを認め、その余を否認する。同項三(一)(二)を否認する。同第二項一(一)(1)(2)は不知。(3)のうち原告らが自賠責保険金一、〇〇〇万円を受領していることを認め、その余は不知。同項一(二)は不知、同項二(一)のうち、葬祭費を原告竹原敏子が支出したことを認めるが、その額は不知。同項二(二)並びに三は不知。同第三項を争う。
(丙) 証拠〔略〕
理由
第一 一 原告ら主張の日時場所で本件甲車と本件乙車が衝突したこと、及び右乙車に同乗していた訴外亡竹原五郎が死亡したこと即ち、本件第二事故が発生したことは当事者間に争がない。
二 右は本件甲車の運転者である被告青野俊則の過失によるものであると原告らは主張するので判断する。
〔証拠略〕によると、本件甲車は後部車輪タイヤが摩滅しスリツプしやすく、且つ制動装置が時速四〇粁以上の場合ではリヤタイヤが右へ振れて正常に運転することができないし、且つ本件第二事故当日は降雨の為路面が滑走し易い状況であつたのに被告青野俊則は右当日本件甲車を運転して本件第二事故現場附近を壬生川港方面より丹原町方面へ向け時速約五〇粁で進行中、その前方約二五米先を走行していた普通乗用自動車(以下本件丙車という)が急制動中であるのを認識しながらそのまま一五米程進行したところ、前方約一〇〇米の地点で反対車線上を対向して来る本件乙車を発見し、且つ同時に本件丙車が約一二米先で徐行中であつたので危険を感じ急制動の措置を採つた上、それより約七・五米進行するや右丙車との衝突を避ける為ハンドルを右に切り対向車線上に出たところ、横振れして反対車線をふさぎ、よつて対向して来る本件乙車と衝突し、折から右乙車前部左側座席に同乗していた訴外亡竹原五郎が左下肢膝関節に機能障害のある身であつたからそのまま右衝突の反動により右乙車車内前部に激突し、即時死亡するに至らしめたことが認められるから、凡そ自動車運転者としては前記のような路面状態では先ず以て右甲車のような故障車の運転を避けるべきであるのに無謀にもこれを運転し、しかも運転中前方左右を注意し先行車との距離を充分保ち、適当な速度で進行すべき注意義務があるのにこれを怠り被告青野俊則は本件第二事故を生じさせたものであるから同被告の過失は明らかである。
三 〔証拠略〕によれば本件甲車が被告高田勝美の所有であることが認められ、これに反する証拠はない。
四 よつて、被告青野俊則は民法第七〇九条に基づき、被告高田勝美は自賠法第三条に基づき、連帯して右第二事故により訴外亡竹原五郎の受けた損害を賠償する責任がある。
第二 本件第二事故による損害はつぎのとおりである。
一 〔証拠略〕によると、原告竹原敏子は亡訴外人の妻であり、原告竹原ひとみはその子であり、原告竹原弥三郎はその父であることが認められる。
二 (一) 〔証拠略〕によれば、本件第二事故当時訴外亡竹原五郎は満三八才(昭和八年一一月三〇日生)であつて、訴外西条電設株式会社の下請負をし、昭和四六年三月には金一四万円、同年四月には金一八万円の収益を挙げ、その一ケ月平均収入は金一六万円であり、雇人一人を使用しこれに一ケ月金三万円を支給し、又その生活費は一ケ月金四万円であることが認められるから、結局訴外亡竹原五郎の純収益は一ケ月金九万円となる。
そして、同訴外人の稼働年数は向後二五年と考えられるからその逸失利益はホフマン方式により年五分の中間利息を控除すると金一、七二一万九、六二八円となる。
ところで〔証拠略〕によると、右訴外人は本件第二事故以前の昭和四三年三月一〇日にも交通事故に遭い(いわゆる第一事故)、前記機能障害を起していた者であつて、これが為右訴外人の妻である原告竹原敏子、同竹原ひとみは右訴外人の死亡後右事故の加害者に対する損害賠償請求訴訟(当庁昭和四五年(ワ)第一八〇号)を提起し、該訴訟は昭和四八年八月二一日確定していること、右事件において右訴外人の後遺症による逸失利益金二七七万一、七六六円の支払請求部分につき右原告らは勝訴判決を得ていることが認められるのである。
惟うに、交通事故の被害者が事故によつて労働能力を幾分か喪失したとすれば、特別の事情のない限りその者は事故後は右喪失割合を控除した労働能力を有するものと考えられるのであるが、その者が事故後事故前と異なる特別の努力をすることにより事故前と変らないか、それよりも多くの収入を得ている場合には、それ丈では後遺症による障害が回復したものと認めることはできないし、その後再度交通事故に遭い死亡するに至つた場合には、死亡時における現実の収入を基準としてその逸失利益を算定することとなるけれども、その場合死亡後にはその者の努力という特別の事情は考えられないので、労働能力の喪失は抽象的にこれを考えるべく、そうすると初回の交通事故による逸失利益のうち、再度の交通事故によつて死亡した後の分は、再度の交通事故について算出した逸失利益よりこれを控除すべきである。けだし、凡そ人の逸失利益なるものは事故当時を基準として、その日以降の将来の稼働可能期間における利益を現在高に引き直してこれを求めるのであつて、右稼働可能期間の全てが評価の対象とされているので、死亡後に右控除分を考慮しないときは、抽象的な死亡後の逸失利益については二重に評価されることとなり不合理となるからである。
そこで、〔証拠略〕によると、第一事故の際における訴外亡竹原五郎の年収は金六九万八、六一〇円であり、その当時の労働能力喪失分のうち本件第二事故に至るまでの分は金五二万円である(年収×ホフマン係数×労働能力喪失率、698610(円)×2.731×0.27。一万円未満四捨五入)、から、結局金二二五万一、七六六円(2,771,766(円)-520,000(円))分丈は前記認定の本件第二事故の際に算出した逸失利益金一、七二一万九、六二八円より控除することとなる。すると、右逸失利益は金一、四九六万七、八六二円となる。
(二) 〔証拠略〕によると、本件第二事故により受けた亡訴外人の精神的苦痛は大きく、これを金銭に見積ると金三〇〇万円が相当である。
(三) ところで、原告らが自賠責保険金一、〇〇〇万円を受領していることは当事者間に争がないのでこれを右(一)(二)の合計額から控除すると、結局亡訴外人の逸失利益は金七九六万七、八六二円となる。
(四) すると、原告竹原敏子は右訴外人の妻として右(三)の三分の一である金二六五万五、九五四円を、原告竹原ひとみはその子として右(三)の三分の二である金五三一万一、九〇八円を各相続したことになる。
三 (一) 〔証拠略〕によると原告竹原敏子が亡訴外人の葬祭費として金二〇万円を要したことが認められる。
(二) 〔証拠略〕によると、原告ら三名は亡訴外人と共に生活していた者であつて、その支えとなる亡訴外人の死亡による原告らの精神的苦痛は大きいものがあることが認められ、これを金銭に見積ると原告竹原敏子、同竹原ひとみは各金一〇〇万円、原告竹原弥三郎は金八〇万円とするのが相当である。
第三 以上のとおり、被告ら各自に対し原告竹原敏子の損害金合計金三八五万五、九五四円の内金二五五万五、四六七円、原告竹原ひとみの損害金合計金六三一万一、九〇八円の内金四六一万〇、九三三円、原告竹原弥三郎の損害金八〇万円の内金五〇万円、並びにこれらに対するその履行期後である昭和四八年七月二一日から各支払済に至るまで民法所定年五分の割合の遅延損害金の支払を求める原告らの本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用につき民事訴訟法第九三条第一項但書第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 宗哲朗)